君に出逢えば世界が変わる
火村がアリスの前に現れてから1週間。
それから一度も火村に会う事もなく、頭の片隅でどこか彼の事が気にはなっていたが、極々普通に平穏な日々を送っていた。
ピンポーン
突然、部屋のチャイムが鳴る。
アリスは、パタパタと廊下を小走りしてドアを開けた。
1週間前に、不用意に開けたせいでとんだ目にあった事もう忘れている。
どうやら、少々オツムが弱いようだ。
「はーい。」
「よう、アリス。」
ドアを開いた先には、火村がいた。
アリスと目が合った瞬間、口元に笑みを作る。
火村を確認するとほぼ同時に、ドアを勢い良く閉めた。
「旦那に向かってそれはないんじゃないか?おーい、アリス。」
「誰が旦那やねん!帰れ、ヤクザ!!」
火村は、ドアのチャイムを何度も鳴らしながら、声を張り上げた。
その向こう側で、アリスはドアに鍵をかけチェーンもかける。
「仕方ないな。」
外で大きな溜息が聞こえた。
「じゃあまた今度な、アリス。」
今度があってたまるか、と心の中で怒鳴ると、途端に足音が聞こえそれが遠ざかり、最終的には聞こえなくなった。
おそるおそるドアを開け、目だけを出して確認する。
すると、突然ドアが勢い良く開かれた。
「んなわけないだろ?」
そこには、満面の笑みを浮かべた火村がいた。
「だっ、騙した!」
「あんなのに引っかかる方が悪い。」
「もう、何の用やねん。」
再び閉めようとしても、火村の力は強くドアはビクともしなかった。
「デートしよう。」
「・・・はっ?」
呆気に取られていると、片手をグイッと引かれアリス自身が外に出てしまった。
火村は、そのままアリスを抱き締める。
「行きたい場所あるか?」
「ないわ、阿呆。」
アリスの頭は丁度火村の胸あたりにあるので、火村が話す度声が脳に直接響いてしかたない。
おそらく火村が吸っている煙草の匂いが、鼻孔をくすぐる。
―――何かを思い出しそうな、懐かしい匂い。
アリスは抵抗して、何とか火村の手から逃れた。
だが、アリスが離れたと同時にまた手を握られた。
このまま、逃げる事は不可能だった。
「んじゃ、俺ん家来い。」
「はあ?」
「舎弟共に、未来の姐さん紹介しないとな。」
「あっ、姐さん!?」
「そう、姐さん。」
グイグイと腕を強引に引っ張られ、呆気に取られるアリスだった。