姫君の宿命




車内は森下とアリスの2人きりだった。
後部座席に一人座るアリスは、暇なのかそれとも森下に好意を持ったのか、積極的に声を掛ける。
森下も、アリスが大事な客であるからか、どんな事にも答えていた。
だが、いつの間にか質問していたアリスの主導権を奪い、気が付くと森下がアリスに質問していた。



しばらく経って、車は大通りから右に曲がり一車線づつの狭い道に進む。
アリスのマンションから程近く、車窓から見える景色もよく知ったものだ。
突然、前方の白いワゴン車がブレーキをかけた。
慌てて森下もブレーキをかける。
ワゴン車の中から若い男が出て来て、しきりにタイヤを見る。
そして、困ったように腕組みをして首をひねる。


「どうしたんでしょう?」

「さあ?とりあえず行ってきますね。」


運転席から外に出て、ワゴン車の男に話しかけた。
すると男は黙って森下の腹を強く殴り、森下は地に崩れ落ちた。


「森下さん!」


慌ててアリスも車外から飛び出したが、出た瞬間後頭部に強い衝撃を受け、倒れてしまった。
意識が遠のく中、アリスは2人の人物を見た。
鉄パイプを持った若い男と、その後ろで腕を組み眉をひそめる男だった。












白いワゴン車の中には、アリスと森下を含め男が5人いた。
運転席にいるのはアリスを殴った男で、森下を殴った男は後部座席で気を失った森下の顔をジロジロと見ている。


「ヤクザとは思えない面だ。」

「まあな。だが、この日の為に調べさせたんだ。間違いない。そいつは森下だ。」

「こんなに綺麗なのに勿体無いな。なあ、コイツもか?貧弱そうで、そうとは見えないが。」


森下と同じく気を失い、目を瞑ったままのアリス。


「さあ?こいつはデータにないが、おそらく同業者だろ。火村組に出入りしてるんだ。それなりのステータスがあるって事だろ。」

「そうだな。」


どうやら、彼等はアリスの事は知らないようだ。
森下を殴った男は、薄く笑みを浮かべ眠ったままの2人を見る。


「可哀想に。ボスに目ェ付けられたのが、火村組の最後だな。ですよね、片桐さん。」


憐れむような口調だが、この状況を面白がっているのは顔を見ればすぐ分かる。
片桐と呼ばれた男は、助手席で深い溜息を吐いた。


「僕は、まだこれに反対なんです。何で、ボスはこんな事・・・。」


頭を抱える片桐に、2人の男は豪快に笑う。


「俺ら下っ端には分かりませんよ。」

「そうそう。それに、俺らは喧嘩出来れば何だって良いんです。」

「なら、事務所の鉢植えに集る害虫と喧嘩しててくださいよ。」


そっちの方が有益だ、と呟くと2人の男はより大きな声で笑い声を上げた。