06 白に包まれた君


火村は、まだアリスの傍を離れなかった。
棺桶をジッと見つめ、身動き一つ取らなかった。
座って両手を組んだ姿は、まるで何かを待っているかにも見えた。





「パパ。」
突然、火村の目の前に可憐が現れた。
火村が選んだ、黒い生地にフリルを沢山あしらったドレスがよく似合っている。



それにしても、何処から来たのだろう。
全く気付かなかった火村は、少し驚いた様に愛娘の名前を呼んだ。

「可憐。」
「あのね、可憐ね、ママにバイバイしたい。」

“アリスが死んだ事”を伝えた時は、狂ったように泣け叫んでいた可憐も今は治まったようだ。
可憐の眼に、火村は決意を見た。

「いいよ。おいで。」

そう言うと、火村は立ち上がり棺桶に向かって歩いた。
可憐も、その後をついて歩いた。
棺桶の前に立つと、火村は可憐を抱っこして棺桶の中を可憐に見せた。


「はい。」
中には、アリスが眠ったように横たわっている。
アリスの着ている白い着物の重ね方が違う事に、まだ幼い可憐は気付かないだろう。





「・・・ママ、バイバイ。」
可憐は小さくアリスに向かって手を振る。





可憐を降ろすと、可憐が今にも泣き出しそうな事に気付いた。
可憐はバレないように下を向いているが、鼻を啜る音と手で顔を覆い隠す仕草で分かってしまう。

「可憐、大丈夫か?」

火村がそう言うと、可憐は手の甲で目を拭い笑顔を見せた。

「大丈夫。パパありがとう。」

そう火村に言い、可憐はスカートの裾を翻し何処かに走って行ってしまった。










火村は、再度棺桶の中を見る。



アリスを包む白い着物。
その周りを囲む白い薔薇。

花嫁衣装にも似たそれが、より一層アリスを綺麗に見せる。










「さよなら、アリス。」










口に出した言葉はあまりに残酷過ぎて、自分で言ったにも関わらず酷く吐きそうになった。