07 霊柩車


葬式も終わり、いよいよ火葬の準備がなされる。
皆、従業員に手渡された白い薔薇をアリスの棺桶に入れ、思い思いに最後の言葉を告げる。


参列者の中には、泣く者も少なくなかった。
わざわざ東京から駆けつけた片桐は、獣の様に泣き叫び、周りの人々がそれにつられてもらい泣きした程だった。


そんな片桐を横目に見ながら、火村は白い薔薇をアリスの顔の近くに置いた。






「永遠のお別れだ。“さよなら、アリス”。」






2度目の別れの言葉は、自分でも不思議な位すんなりと口に出来た。
アリスが死んでから何日も経ったが、火村はやっと“有栖川有栖の死”を納得したようだ。



火村の目には、死んだ筈のアリスが笑ったように見えた。
それは、死んでも尚火村を心配し続けたアリスの安堵の笑みだろうか。


火村はそんなアリスに苦笑しつつ、誰にも聞こえない位小さな声で、

「またな。」

と呟き、棺桶から離れた。









3人の男性従業員が、アリスの棺桶に蓋をし釘を打ち付ける。
釘の音が、酷く五月蝿く響いて聞こえる。
まるで鐘の音のように響くそれを、火村は他人事の様に聞いていた。



そうこうしてる間に、霊柩車に棺桶が運び込まれた。
火葬場へ向かう準備が出来たようだ。


「行きましょうか。」

隣にいたアリスの母親に言われ、火村は小さく頷いた。














捜査一課のドアを勢い良く開ける音。
そして、そこから現れたのは息を切らして走って来た森下だった。
森下は途切れ途切れの声で、のんびりコーヒーを飲んでいた船曳にこう告げた。

「警部、大変です!!―――が逃走しました!!」

逃走したのは、アリスを殺した張本人。―名前は割愛させて頂こう。―
検察に護送する際に隙をつかれ、逃げられたのだという。

「なんやて!?」

船曳が、机にコーヒーカップを乱暴に置いた。
あまりに乱暴なので、中のコーヒーが隣に置いておいた書類にシミを付けてしまった。


「その時、捕まえようとした警官が2名負傷!!警官の拳銃を所持したもよう。未だ―――は逃走中です!!」
「まだ、遠くへは行ってない筈だ。早よ捕まえるんや!!市内に検問を敷け!」



「ハイッ!」














パトカーのサイレンが、何重にもなって聞こえてくる。
姿は見えないが、近くを走っている様だ。


しかし、逃走者である彼はそれに怯える様子はなかった。

ただ、目的の為。
愛しい恋人の骸を自分の物にする為に。



彼は、それに絶対的な自信があるのか、不敵に笑う。


「迎えに行くよ、僕の有栖。」


口唇をつり上げ、赤い舌をチロチロと見せる気味の悪い彼の笑顔に、答える者は誰もいなかった。


















さぁ、カードは揃った。

後はキミの運次第だ。