思いの丈・H



後悔するしかないあの日から3日が経った。
火村の部屋はあの日のままで、机の上には未だにビールの空き缶がゴロゴロと散らかっている。
片付けなければ、と思ってはいるもののなかなか行動に移せない。



面倒なわけじゃない。

余韻に浸りたいわけでもない。

これは、自分に対する戒めなのだ。






凶暴にしか愛せない自分への戒め。





強姦に等しいあの行為を、自問自答しても答えは出ない。
あの時は狂っていたとしか言いようがない。
だが、そんな言い訳をアリスに出来るわけもなく、ただぼんやりと自室を眺めた。



この部屋で、アリスを押し倒した。

この部屋で、アリスを怖がらせた。

この部屋で、アリスを泣かせた。






この部屋で・・・






自分自身への嫌悪感で吐きそうになる。
なんて、卑劣で最低な男だと己を嘲笑う。






「アリス。」






想ってみても、彼は帰ってこない。
呼んでみても、彼は帰ってこない。
叫んでみても、彼は帰ってこない。






「アリス。」






あまりにも、その名前が綺麗だから何度も呟いてしまう。
この3日間で、幾つその名前を口に出しただろう。






「アリス。」

「アリス。」

「アリス。」

「アリス。」






火村の部屋の襖は、あの日以来開けられる事はなく、ぴったりと閉まったままだった。






部屋の外で、猫がか細い声で鳴いていた。