変わってしまった不変な毎日






キミに近付きたいのに、

キミに触れたいのに、

キミに伝えたいのに、




それを拒んだボクを許して。





翌日、火村は大学へ現れた。
久しぶりに会う火村に、友人達が群がる。
火村も、まんざらではないらしくはにかんだ笑顔で応対する。


「よう、火村。元気だったか?」
「ああ、まあな。」
「おー、火村久しぶり。」


人の輪より少し離れた場所に、アリスはポツンと一人座っていた。
見ないように、見ないようにと顔を窓の方に背けるが、やはり火村が気になってしまう。

机の上には、書きかけの原稿用紙と筆記用具。
昨日から執筆が全く進まない。
頭の中では書きたい事が溢れているのに、それが手に伝わらない。
手に持っているペンを、上下に振ってみる。






・・・が、何も変わらない。

何故か、原稿用紙に最高のミステリーを書き綴る気分にならない。


「よっ。」


声がした方へ顔を上げると、あの無責任な友人の姿。


「やぁ。」


一応挨拶をして、また目線は窓の外へ。
彼の方を向いてしまえば、背中越しに火村の姿が見えてしまう。
アリスはそれを避けたかった。
友人は、心配そうにアリスの隣に座った。


「元気ないな。火村の次はお前か?勘弁してくれよ。」

「ちゃうわ、阿呆。」


上手く小説が書けないのだと、苦し紛れの嘘を吐く。
まさか本当の事は言えないし、かと言って黙りを決め込むのも友人に悪い。
友人は、ホッとした表情を浮かべた。


「なら良いんだけどな。ああ、昨日は悪かったな。」


そう言って、自分の鞄から次の講義の教科書を出した。
出す勢いが良過ぎたのか、机に置いた時にアリスのペンケースが少し動いた。

アリスも、原稿用紙を鞄にしまい教科書を出す。
今のアリスには、講義中に執筆する気も起きなかった。


「ええよ、別に。」


ぶっきらぼうに答えると、それから間もなくチャイムが鳴り、大嫌いな教授が壇上に上がった。




アリスは暢気な友人の顔を見て、2割くらいはお前のせいじゃ、ボケッ。と毒づいた。