贋作の裏




今日もまた駄目だった。
やはり、アリスの代わりにはならない。
折角、催眠術を必死に覚えたのに。
アリス候補の全ての記憶を無くさせ、この部屋が自分の部屋である事と俺が友人である事を植え付けても、誰もアリスの様にならない。
どれも我が強過ぎて、アリスのイメージじゃない。
今日のアリス候補は、訛りが強くて不合格だ。
関西訛りじゃなくて、東北訛りのアリスなんてアリスじゃない。

俺は、携帯電話を弄って出会い系サイトを開く。
そこには、俺を女子大生だと思って書き込んでくる馬鹿な男がワンサカいた。
好都合な事に、女子大生のメールの書き方―こういう時だけ、低能な学生も役に立つ―を知っている。
アリスに似た男を探す事に、何も障害もなかった。
その中の男の一人に自分の写真を要求すると、疑問を持たずに送信してきた。
添付ファイルを見ると、その男は目元がアリスに似ていた。


「火村、何してるん?」


東北訛りの強いアリスが、俺を呼ぶ。

嗚呼、止めてくれ。
俺のアリスが汚れる。


「何でもない。もう少ししたら行くよ、アリス。」


今日のアリスも一日で終わりだなと思いつつ、出会い系の男に「会いたい」の文字と少しの絵文字を打つ。
これで、馬鹿な男は興奮して会う日時を決めるんだ。



ほら、案の定。



何度もアリスを探す度に、こういう作業に慣れてしまった。


「火村。ほら、夕飯冷めるでー。」


遠くでアリスが呼ぶ。
だから、その東北弁混じりの関西弁を止めてくれ。
反吐が出る。


「ああ、今行く。」


俺は、携帯電話を閉じてアリスの元へ向かった。



さよなら、今日だけのアリス。
君は、笑顔が本物に似ていたよ。














その本物も、笑顔のまま俺の前から消えていったけどな。