指と暗闇




カーテンの隙間から、月が白くぼんやりと照らし出す夜。
白いシーツの海に、火村とアリスが二人沈んでいた。
お互い汗ばむ身体を投げ出し、心地良い疲労感で満たされている。
暗闇の中、二人の肌に伝わるのは皺になったシーツの感触だけだった。
火村が、とろんとした目をしたアリスの頬を撫でる。
宝物を愛でるようにそっと優しい感触。
あんなに温め合った筈なのに、火村の指先の冷たさに思わず眉を顰める。

「冷たいな。」

「知ってる。」

悪戯気に笑う火村に、アリスは不服そうに下唇を突き出した。
火村が突き出た下唇をゆっくりなぞると、アリスはぱくりとその人差し指を食べた。
アリスが甘噛みする感触が、妙にくすぐったい。
同じアリスの体内なのに、先程まで感じていた激しい熱さより数段温かった。
こんな生温さも嫌いじゃない。

「離せよ。」

「ひゃだ。」

満足そうに笑うアリスに、火村も喉を鳴らして笑う。
火村が指を引き抜こうとしても、アリスの歯が掴んで離さない。

「離せよ。」

「ふふ。ひゃだ。」

火村の指を咥えているから、アリスは上手く喋れない。
嫌だ、という言葉も舌足らずで火村には可愛く聞こえる。

「このヤロウ。」

そう言いつつも、火村の手はとても優しい。
火村は捕まってない片方の手で、アリスの耳や髪を愛撫する。
優しく、優しく、ゆっくりと、ゆっくりと。
髪はその感触を楽しむように、手に髪を何度も滑らせて。
耳は、その溝を全てなぞるように、至極丁寧に。
くすぐったい程の柔らかなそれに、アリスの唇から思わず小さな嬌声が聞こえる。
その僅かな隙を狙って、火村はアリスの口内から指を引っこ抜いた。
アリスの唾液でてらてら光る人差し指を、見せつけるように舐める。
愛おしそうに、アリスの唾液を舐め取る火村。
挑発するような眼差しが、アリスに突き刺さる。

――――骨の髄まで喰われる。

そんな危機感を覚えるような視線。
思わず、アリスの喉がごくりと鳴った。
火村の赤い舌が、唇の隙間から覗く。
あれが欲しい。
アリスは、すっと火村に顔を近付けて唇に噛み付いた。
火村の口内を、本能のまま舌でまさぐる。
いや、舌で舌を愛撫していると云った方が正しいのか。
火村も応戦するが、少々戸惑っているのが分かる。
互いの唾液を絡ませ、勿体無いからゆっくりと飲み込む。
何故、これが性交と呼ばれないのだろうかと不思議なくらい性的な行いに思えた。

「なんだよ。あれだけやって欲求不満か?」

「ちょっと。」
アリスは火村の上に乗っかり、鎖骨を一撫で。
火村を真似て、出来るだけ優しく性的に。
奴の煽り方なんて簡単だ。
もうほら、情欲に塗れた顔でこちらを睨んでいる。
口元を歪ませて、今度はアリスが挑発する番だ。

「キミの方が欲求不満らしいな。」

「ああ、誰かのせいでな。」